INTRODUCTION
近年、「ネイチャーポジティブ(自然再興)」という言葉を耳にする機会が増えています。これは、自然の損失を食い止めるだけでなく、回復軌道に乗せていくという考え方です。気候変動と並び、生物多様性の保全は企業経営にとって避けて通れない重要課題となっています。こうした中、私たちFANPSは、金融の立場から企業の取組を支え、ネイチャーポジティブを後押しすることを目指しています。
自然資本をめぐる現況とFANPSの活動
まず、世界の動きを見てみましょう。2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」1は、2030年までに自然を回復軌道に乗せるという共通目標を掲げ、企業や金融機関にも具体的な対応を求めています。
こうした流れを受けて、国内ではTNFD2提言への賛同も広がっており、世界でTNFD対応を宣言した企業(アダプター)の約3割が日本企業となるなど、世界的に見ても高いコミットメントを示しています。また、企業が関与する「自然共生サイト」3の登録が進むなど、自然資本を守りながら活用する取組が着実に広がっています。一方で、多くの企業にとっては「具体的に何をすべきか」「どのように事業機会につなげるか」といった本質的かつ実務的な課題が残されています。
FANPSはこうした課題に応えるため、金融機関が連携して発足したアライアンスです。異なるバックグラウンドを持つ国内の金融機関がそれぞれの知見を持ち寄りながら、金融機関としてネイチャーポジティブに向けた役割や取組を検討し、企業の実践的な取組を支援する点が、FANPSの最大の特徴です。こうした連携から、企業と金融機関の自然にかかるコンセプトペーパー4の提示、ネイチャーポジティブに資する技術等を整理したソリューションカタログ5の公表、シンポジウム6の開催、業界団体との対話7などを通じて、企業をはじめとするステークホルダーの皆さまとともに実践的な取組を進めてきました。
FANPSが目指すもの
FANPSの基本的な考えはシンプルです。生物多様性への対応を単なる規制対応やコストとしてではなく、「新たな価値創造と成長の機会」として捉えることです。自然資本は企業活動の基盤であり、その持続可能性を高めることは、企業にとって、そして金融機関自身にとっても中長期的な競争力の強化につながります。
その実現に向けて、私たちは以下に注力していきます。
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情報とネットワークのハブとして活動:
金融機関の強みである「顧客基盤」と「ネットワーク」を最大限に活用し、異なる業種や専門性を持つプレイヤーを繋ぐハブとなる。具体的には、環境・社会課題や事業上のニーズを抱える企業と、それに応え得る技術やサービスを有する企業を結び付け、連携構築から実証・事業化に至るまで長期的に支援する。また、有望な技術開発の情報や新たな連携・事業機会を探索するとともに、その成果や知見を広く発信し、ネイチャーポジティブへの理解を浸透させる。
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ネクサスアプローチ8の実践に向けた知見の獲得:
生物多様性の問題解決だけでなく、気候変動、水資源、食料、資源循環、人権なども一体的に捉えた「ネクサスアプローチ」の実践を広めるため、アカデミアやバリューチェーン全体との対話・連携を通じて統合的な知見を蓄積し、企業が実務に活かせる情報を発信する。
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ネイチャーポジティブを事業の持続可能性・成長性に接続する仕組みの検討:
企業での意思決定のためには、自然資本が事業の持続可能性や成長性にどう繋がっているのか、その非財務的価値を可視化する仕組みが必要であり、その議論や研究に取り組む。こうした取組によりファイナンスとビジネスを有機的に結びつけ、ネイチャーポジティブに向けた取組を持続的な市場として成長につなげる。
これからの動き
今後、自然をめぐる動きは、国際的にも国内的にも一層加速していきます。まず注目されるのが、今年10月に開催が予定されている生物多様性条約締約国会議(COP17)です。ここでは、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の中間評価が予定されるなど、各国や企業の取組進捗が確認されるとともに、目標達成に向けた具体的な施策が議論される見込みです。企業にとっては、単なる宣言にとどまらず、実効性ある取組を具体化していく段階に入っていくことになります。
また、日本においても重要な機会が増えています。今年7月に熊本市で開催された「Global Nature Positive Summit 2026」9では、国内外の企業・金融機関・政府が集い、日本国内の取組を含めた具体的な実践や課題が共有されました。FANPSメンバー各社もサミット登壇等を通じて取組の発信等を行いました。また、同時開催された「NATURE TECH!」10では、FANPSとしてブース出展を行い、来場者の方々にFANPSおよびその活動を紹介しました。こうした発信の機会をとらえ、今後も自然にかかる国内外での連携を拡大していきます。
なお、サミット閉会時に取りまとめられた「熊本宣言」11の中では、ネイチャーポジティブ経済への移行はコストではなく「投資として」、そして「長期的な価値創造の機会として」認識されるべきであることが強調されています。またサミット中、自然の状態や変化を測定する指標である「自然の状態指標」12の中間報告も行われるなど、企業には理念や開示にとどまらない、具体的な行動と成果が求められ始めていると言えます。
また、2027年に開催予定の「GREEN×EXPO 2027」13は、自然と共生する未来社会の姿を広く社会に示す大きな契機となります。来場者への啓発にとどまらず、企業にとっては自社の取組を社会と共有し、新たな価値を創出するための実証の場ともなり得ます。
こうしたイベントはネイチャーポジティブに取り組む主体の単なる情報発信の場ではなく、企業の具体的な行動を促す「転換点」としての意味を持っています。FANPSはこうした国際的な潮流をとらえながら、今後も発信や連携の機会を積極的に活用し、ネイチャーポジティブ経済への移行に向けた活動を継続していきます。
ネイチャーポジティブの実現は、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、企業と金融機関が連携し、ビジネスとファイナンスを結び付けることで、その実現可能性は大きく高まります。FANPSは、その「ハブ」としての役割を担いながら、企業の挑戦に寄り添い、金融の力を通じてともに新たな価値を生み出していきます。本コラムをはじめ今後もネイチャーポジティブにかかる情報を皆さまにお届けしていきます。
注釈ENDNOTES
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昆明・モントリオール生物多様性枠組
2022年の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された国際枠組。2030年までに自然を回復軌道に乗せることを目指し、「ネイチャーポジティブ」や「30by30」、企業・金融機関による情報開示といった概念が盛り込まれたことが特徴。
参考リンク:https://www.env.go.jp/nature/biodiversity/kmgbf.html
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TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures;自然関連財務情報開示タスクフォース)
2021年に発足した民間タスクフォース。企業・金融機関が自然関連の依存・影響、リスク・機会を把握し、開示するための情報開示フレームワークを検討・提言しており、世界で700超の企業・金融機関がTNFD提言に沿った開示にコミットするなど、実践が広がっている。
参考リンク:https://tnfd.global/
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自然共生サイト
生物多様性増進活動促進法に基づき、国が認定した、民間事業者等による生物多様性の保全・回復に向けた活動計画の実施区域。企業の森林、里地里山、都市緑地など多様な場所が対象となり、国際目標である30by30(2030年までに陸域・海域の少なくとも30%を保全・保護することを目指す目標)の達成にも貢献する。
参考リンク:https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/
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コンセプトペーパー(FANPS Concept Paper)
FANPSが金融機関として、企業経営のネイチャーポジティブへの移行に向けた共創の考え方や取組を整理したもの。自然関連リスク管理やビジネス機会の捕捉を、企業の中長期的な成長につなげる4つの「コアアプローチ」等を提示している。2025年初版発行。
参考リンク:https://www.fanps.jp/FANPSConceptPaper
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ソリューションカタログ(Solution Catalogue toward Nature Positive)
事業活動において発生する自然への過度な依存やネガティブな影響の削減・緩和、または自然を再生する活動に役立つソリューションを取りまとめたカタログ。既に商用化された商品・サービスから、FANPS独自の選定基準によって選抜した99技術を掲載。2025年ver.2.0発行。
参考リンク:https://www.fanps.jp/catalog
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シンポジウム
企業経営のネイチャーポジティブへの移行に向けた考え方や取組みを、FANPSが金融機関の視点から整理した「FANPSコンセプトペーパー ネイチャーポジティブへ向けた共創のためのアプローチ」の公表に合わせ、2025年10月9日、「自然関連のリスクと機会への対応を企業の成長シナリオにどうつなげるか、企業と金融機関でともに考える」をテーマにシンポジウムを開催しました。
参考リンク:https://www.fanps.jp/symposium/
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業界団体との対話
FANPSとの連携のもとに、電機・電子4団体生物多様性WGが、電機・電子業界の企業活動と生物多様性との関係性について、事業・製品ライフサイクルステージ別に整理した「電機・電子の事業活動と生物多様性の関係性マップ Ver.3.0」及び「電機・電子事業と生物多様性の関係性マップ使用ガイダンス(改定版)」を発行しています。
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ネクサスアプローチ
環境・社会課題を個別にではなく、相互に関係するものとして統合的に捉える考え方。生物多様性についても、気候変動、水資源、食料、資源循環、人権など他の課題との関係を踏まえ、トレードオフや相乗効果を考慮することが必要とされている。
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Global Nature Positive Summit 2026
2026年7月14日~15日の間、Nature Positive Initiative(NPI)が主催し、熊本県熊本市の熊本城ホールで開催された国際サミットで、参加登録者は2,725人を数えた。ネイチャーポジティブの実現に向けて、世界各地の多様な関係者・関係団体等の対話と協働を促進することが目的とされる。2024年にオーストラリアのシドニーで開催された第1回に次ぐ第2回。
参考リンク:https://events.nikkeibp.co.jp/event/2026/GNPS_jp/
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NATURE TECH!
「Global Nature Positive Summit 2026」と同時開催された、産官学の出展者が集い、衛星センシング、AI、IoT、ブロックチェーン、再生可能エネルギーなどの先端技術を用いたネイチャーテックやその実践例等を紹介するとともに、協業の創出を図る場。
参考サイト:https://events.nikkeibp.co.jp/event/2026/naturetech/
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熊本宣言
Global Nature Positive Summit 2026の成果として、閉会時に採択された宣言。世界で85団体が賛同を示し、その半数近くを民間セクターが占めた。
参考リンク:https://www.naturepositive.org/news/other/kumamoto-declaration/
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自然の状態(SoN; State of Nature)指標
世界の自然保護団体、金融機関ネットワーク、企業団体、科学機関などが連携して開発を進める、ネイチャーポジティブの進捗を測定するための共通指標。ネイチャーポジティブに向けた取組成果を客観的に捉えるための、共通の測定手法として注目を集めている。Nature Positive Summit 2026では、「生態系の範囲」「生態系の状態」「種の絶滅リスク」「種の個体数」の4指標が最終案の軸となる見込みであることが発表された。
参考リンク:https://www.naturepositive.org/metrics/
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GREEN×EXPO 2027
2027年3月から9月までの6か月間、神奈川県横浜市の旧上瀬谷通信施設で開催される国際園芸博覧会。「植物の自然資本財としての多様な価値を再認識し、持続可能な未来と誰もが取り残されない社会の形成に活用する」ことを掲げ、グリーン社会を実現する最新のテクノロジーの展示等が予定される。国内外から1,500万人の参加が見込まれている。
参考リンク:https://expo2027yokohama.or.jp/
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